日向翔陽
今から電話かける!
でれなかったら、かけ直さなくていい!!!
着信
日向翔陽
06/13 AM 8:00
「もしもし?」
『、出んの早くない!?』
「返事しようとしたら、すぐかかってきたから」
夢かと思って、着信相手を確かめた。
つい 顔 ゆるむ
なつかしい声
「久しぶり…… どうしたの?
会いたくなるからかけないって言ってたのに。
すごく、……うれしいけど」
電波、技術、テクノロジーってすごい。
頭の中で、地球がぐるりと一周する。
ここは日本で、
あっちは、ブラジル。
声が、翔陽に届く。
息づかいが聞こえる。
いつもかけてたときみたく。
つながってる。
『あ、あのさ!』
「うん」
『、いま、時間ある?』
「あるよ」
『カメラつけていい? 顔、見たい』
「そ、それは待って。
1分、いや、30秒ちょうだい」
『どんなかっこでも、俺、気にしないよ』
「いま、シャワー浴びたばっかなの」
『……』
「う、そ!」
同じタイミングでカメラがオンになった。
なんともいえない表情の翔陽が映る。
つい笑ってしまった。
「ねえ、想像した?」
『……』
「いいよ、正解は言わなくてっ」
向こうの画面はどこか暗かった。
「いま、部屋じゃないんだね」
『海のそば! みえる?』
画面から翔陽が消えて、スクリーン全部がまっくらになった。
「ぜんぜん、波の音はちょっとするかな」
『そっか、試合する前にかければよかった』
「試合したんだ、楽しかった?」
『たのしかった!!!勝った!』
「おめでと! もう、砂と仲よくなれた?」
『まだっ。1年前よりは、足、ちゃんとぐんって踏めてるけど、もっと、こうできたっ』
質問を重ねるたびに、やっぱりバレーの話をする翔陽は活き活きしているなとうれしくなった。
『って、は?
俺の話ばっかしてるっ。忙しい?』
急に今度は質問攻めだ。
ぽつぽつと送られてくるメッセージに返信する程度には近況を伝えていたつもりだけど、やっぱり足らなかったらしい。
こうやって話すと、いくらでも話題はでてくる。
『そういや、、いろんな集まりに顔出してるって聞いた』
「まあ、それなりに」
『連絡先も交換してるって』
「……、それ、誰かに聞いたの?」
思い当たる人たちの名前をあげてみても、翔陽は誰から聞いたかは答えてくれなかった。
「なんで秘密にするの?」
『教えたら、今度隠されるかもしんないじゃん。、鋭いし』
「そんなことないよ。
だいたいさ、バレーに集中するから連絡とらないって言ってたの、翔陽だよ?
それなのに、こっちのこと気にしてるんだ?」
『しっ集中はするけど、のことは知りたいです! カレシ、なので!』
「ふーん……じゃあ、さ。
翔陽がきれいな女の人にデレデレしてたの、私が知ってるって、ちゃんとわかってる?」
『でれっ!? そ、そんなこと、した覚えない』
「サインしてさ、写真撮ってたでしょ。ほら」
証拠の写真を、ひょいと指先一つで突きつける。
『こ、れは、その』
「その?」
続きを促しても、翔陽はむにゅむにゅ口を結ぶだけだった。
『……これ、どうしたんだよ』
「ないしょ」
『まさか、大王様?』
「黙秘します」
『なんで!!』
「別に、なんとなく。
ショーヨー選手には、ステキな彼女さんがいることも知ってるから、そんなに気にしてないしね」
『ん……、ん!? それ、答えになってないだろ!』
「それより、なんで電話くれたの?
理由、まだ聞かせてもらってないよ」
約束の2年間、残り半分は切ったけど、まだ帰ってくるには時間がある。
翔陽が、ぽつりとこぼした。
『今日……
恋人の日、なんだって、こっち』
はじめて聞いた記念日。
『俺も知らなかった。
そうなんだって。
……、の声、聞きたくなった』
さっきまでと違う声だった。
私を求める時だけの、唯一の響き。
『、聞いてる? 音とぎれた?』
「ううん、聞こえてる」
ああ、もう。
どれだけ毎日をいろんなことで埋めていたか。
いっぱいに、なりかけてたのに。
こんなちょっと話しただけで、満たされた。
「うれしい。すごく、うれしい。
翔陽、ちゃんと、私のことすきだ」
『、自覚なかったのかよ』
翔陽が不服そうにこっちを見ていた。
「あった、けど」
『“けど”?』
「……なんでもないよ。
わたしの、彼氏さん」
そう呼びかけると、ちょっと照れくさそうに翔陽も表情を緩めた。
「いつも、聞かれたらちゃんと話してるよ。
彼は、地球の反対側に行くくらい、バレーに熱くて、かっこいいって」
浮かぶだけ好きなところを語ってみると、画面の向こうの翔陽が固まっていた。
電波が悪いわけじゃない。
「照れてる?」
『そりゃ!!!
……、すきだ』
不意打ち。
「うん……」
『、そこはさ、もっと違う返事くんないの?』
「いや、だって、いきなりすぎる」
『照れている』
「い、言わないで」
『照れてるっ』
「も、くりかえさないでっ」
やだな、部屋の目覚まし時計が鳴った。
電話の向こうで翔陽も察したようだった。
それぞれの毎日が、私たちを呼んでいる。
『、切る前にさ』
「なに?」
『俺にも、ちょうだい』
「……なにを?」
『俺が欲しいもの』
「それは、なに」
『ならわかる』
ずるい言い方だ。
時間がない。
翔陽の、欲しいもの。
「翔陽の事、いつも、いつでも、応援してる。
ずっと待ってる。
がんばんなくていい、けど、がんばれ。
……続きは、直接、ちゃんと、目の前で言いたいから、今はここまでっ。
これでいい?」
今度は向こうが電波が悪いのかと思った。
違ったらしい。
翔陽が間を置いて、言った。
『もっと』
「えっ」
『もうちょっと、なんか』
「……翔陽がキスしてくれたら、いいよ」
『キっ!?!
ど、……どうやんの?投げキッス、とか?』
「じっ冗談だよ、やんないでね、絶対!」
『が言ったのに!?』
「言ったけど!!」
本当にやろうとするとは思わなかった。
だって、
「翔陽、外だから。
誰かにみられたら、やだ」
そりゃ、日向翔陽の彼女だって自覚はある。
の彼氏だって疑ってない。
けど、それとこれとは別だ。
わざわざ他の人が見える場所で、私に向ける顔をさらさないでほしい。
画面の向こうで翔陽がうれしそうだった。
「な……、なに?
もう切るよ!?」
ニヤニヤみられてるのもはずかしかったし、さすがにタイムリミットだった。
『待った、昔みたいにさ、いっしょがいい!』
「いっせーの、で?」
『そう!!』
「じゃあ、いい?」
『おう!』
「『いっせーの、せっ』」
通話は終了しました。
06/12 PM 8:42
新着メッセージが3件あります。
から、3つも!?!
なんだか気持ちが一気にあふれて、通話ボタンをもう一回押していた。
翔陽って呼ぶのがもう聞こえる。あきれた感じで、でもぜったい出てくれるってわかってる。
バレーにどこまでも引っぱられ、は着地点にいてくれる。
俺の見たもの、見るもの、ぜんぶ伝えたい。
に、なにもかも、全部。
俺にも、全部。
なにもかも。
の。
全部。
『翔陽……』
ほら、正解だ。すきだ。
end.
and happy Dia dos Namorados!!