ランニュー!!
※ハイキュー!!描きおろしショートエピソード「約束・2」 の後のちょっとした話
「おまちどーーさまっ」
厚い雲が風に流されて、合間から光がこぼれる頃、がビーチコートのそばに座り込む4人に駆け寄った。
「さんっ」
いち早く日向が反応して声を弾ませる。
「あ、影山の」
「影山の」
「! 俺のですッ」
見かけたことのある彼女の姿に、金田一、国見がぽつりと感想をこぼすと、日向がすかさず訂正した。
「、なんだこれ」
影山が彼女が持ってきた黒く四角いナイロンバッグを受け取った。
見た目よりは重い。
彼女は短くお礼を言って、バッグのファスナーをすべらせた。
「ドリンク。足りないかなと思って。
どーぞ、影山選手」
「おぉ」
からドリンクを受け取る。
懐かしい。影山は言葉にはしなかった。
は金田一、国見にも同じボトルを手渡した。最後に日向にも。
翔陽、と呼びかけたのち、彼女は一つ咳払いをして日向くんと呼び直した。
「部屋にあったの借りちゃった」
「いいよ」
「あと遅れてごめんね」
「道迷った?」
「ちょっと出る時にね」
日向とがしゃべる姿を横目に、国見が影山にこぼした。
「ネットに出てたの、あの子?」
「ネット?」
金田一が口を挟むと、国見は怪訝そうな顔をした。
「1年くらい前に騒がれた影山のニュース……、送ってきたのお前だろ」
「おぼえてねーよ。 そうなのか?」
「さあな」
影山はドリンクのボトルから口を離してキャップを戻した。
「」
「ん?」
「ドリンク届けに来たのか?」
影山が受け取った黒い鞄は、まさにお届けアプリの配達人がよく使うものだった。
ただし、彼女のはブラジルのアプリ名がプリントされている。
は頷いた。
「それもあるけど、それだけじゃなくてっ」
4人が不思議そうに見守るなか、彼女は鞄からスマホを取り出した。
「ほら、記念にっ!」
*
「ほーら、もっと寄って! もっと!!」
の指示に国見がため息を吐いてぼやく。
なんで写真なんか。
そうこぼせば、金田一がまーまーとなだめて笑った。
「こんな時でもないと、写真撮んないのはあの子の言う通りだろっ」
「そーそー!!」
日向が金田一の意見に楽しそうに同意するのと反対に、国見の表情はますます曇った。
「ありがとな」
「ハッ?」
国見は隣を見て、現実かどうか凝視した。
今のお礼は、たしかにこの影山から発せられたものだ。
「なんで「撮るよーーー」
「おー!」
がスマホで撮影するなかで、国見が続けた。
「なんで、礼なんか」
「バレーやってないのに来てくれた」
もうちょっと撮るねっ。
明るい彼女の声と裏腹に、影山は淡々と続けた。
「だから、ありがとな。金田一も」
「いやっ、おう」
すぐそばで国見とのやり取りは聞いていたとはいえ、いざ自分にも言われると金田一はどぎまぎと肩をかたくした。
「緊張してんの?」
「してねーよっ」
日向の指摘に金田一がいつもの調子を戻した。
彼女のOKのひと声に、4人がそれぞれ距離を置いた。
日向と影山が準備運動をし始める姿に、国見が眉間にしわを寄せ、金田一も身体を動かし始めた。
「撮影?終わったし、帰るよな」
「やんじゃねーの?」
「……」
いつの間にか言い争っている日向と影山の間に金田一が合流する内に、国見がに近づいた。
は愛想よく微笑んだ。
「写真、あとで送るね」
「連絡先知ってんの?」
「あ、じゃあ「俺が送る!」「俺が送る」
かぶせ気味に日向と影山がそう言うと、は頷いた。
別に国見自身、の連絡先を教えてもらおうとしたわけじゃない。
けど、それを説明するのも面倒で、今日何度目かわからないため息をついた。
「俺は」
ここで、もうビーチバレーをしない、と宣言したところで、やる気満々の3人にコートに引きづりこまれるのが目に見えている。
そうだ。
「バレー、やってたんだよね、たしか」
国見にそう問いかけられたは、写真整理する指先を止めて肯定した。
ならばちょうどいい。
自分の身代わりにすればいい。
「ビーチなら男女でチームもできるよな」
「うん、できるよ。やったことあるし」
「じゃあ」
「わかった」
はスマホをしまって上着を脱いだ。
そして、国見の腕をつかんで、高らかに掲げた。
「私と国見くんでチーム組むねーーー」
「!!?」
なんだそれ。そうじゃない。
国見が困惑を極め、金田一が固まり、日向と影山が衝撃を受け、この場の空気が固まった。
「相手チーム、決めてね。3人」
「な! なんでさんと!!俺やる!」
「俺がやんだよ」
「なんでだよ!!」
日向と影山が言い争っているそばを通り過ぎ、が国見の腕を引っ張ってコートに入る。
金田一と国見が目が合い、金田一が噴き出すと、国見が不機嫌さを隠さずににらみつけた。
「なに笑ってんだよ」
「いや? ナンパ成功じゃん」
「ハァ?!」
「いや、彼女の方」
国見が自分の腕を引っ張る彼女を見やれば、は悪戯っぽくVサインを返した。
「バレー、私もしたかったから」
雲の切れ間からこぼれた日差しが、祝福のように彼女に降り注ぐ。
また一段と長いため息は海風に流され、その内、かき消えた。
end.
おまけ
帰り道。
「さすが日向の彼女だよな……」
「な、なんだよ急に! へへっ」
「褒めてないからな」
散々付き合わされた国見と、通じてない日向。
ほんとに end.