ハニーチ



とあるIFストーリー
バレンタイン前





『大事な相談があるって言っといてさ、ただの、ほのぼのリア充じゃん』

「どこが!?」


後輩に見られて大変だったって話なのに、いくら力説しても友人に流されるから、この話はもういい。

それより、本題は14日だ。

2月14日。



『そっちも楽しむだけでしょ、チョコの用意もしなくていいし』


“チョコなくていいからさ、甘えてほしい!”


14日、今年はなにが欲しいか尋ねてみたら、翔陽から返ってきた答えがこれだ。



「そんなの、どうしたらいいかわかんないよ……」

『甘えればいいんだよ、日本語わかる?』

「わかる、けど!!」


いっそチョコレートのデコレーションケーキでも欲しいと要求された方がよっぽど楽だった。
レシピと材料さえあれば、後は作るだけで済む。

翔陽に、甘える。

あまえる……、いや、もう十分甘えているつもりだ。


『ここでキスして、とか言ったことあんの?』

「ないよ!」


どういう状況だ。
ドラマのヒロインならわかるけど、現実世界でそんなこと言う場面がない。


『じゃあ、アレ買ってーとかは?』

「自分でお金貯めて買えばいいんじゃない……?」


なんでわざわざ相手にねだるのか。


『あとはー、私の事どれくらい好き?とか』

「え、それ、どういう話の流れで聞くの?」

『二人でくっついてるときに?』

「そういうのはわざわざ聞かなくても……」


言わずとも、日向翔陽という人は、好きだという気持ちを言葉にして伝えてくれるし、態度でもなんだって思い知らせてくれていた。

ベッドの上で枕を抱きしめる。


「ほんと、わたしって可愛くないね……」


いや、知っていたけど、いま改めて思い知る。

彼氏に甘えてほしいと言われて友達に相談するなんて、どれだけ甘えることに自分が不向きか悟る。


、いっそさ、自分がかわいいって思うキャラになったつもりでいけば?』

「どういうこと?」

『ほら、こないだ貸したマンガ、すぐ出せる?』

「待って」


部屋に置いてあったマンガの単行本に手を伸ばした。

友人おススメの人気漫画、電話の向こうで促されるまま開いたページには、読者ランキング1位のヒロインが満面の笑みで描かれていた。


「つまり、この子になったつもりで振舞うってこと……?」

『そう、ほら、前に勢いで買った服あるじゃん、あれ着たら?』

「え、アレ!?」


覚えはあるけど、どこにしまったかな。

マンガをベッドに置いたまま、クローゼットを目指した。


『あの服ならさ、あのキャラっぽくない?』

「あーーー、まあ、確かに」


クローゼットの隅っこに入れていた、やけに襟口が広い服。

スカートはひらひらしたやつを選んだ方がいい。その方がこのキャラっぽい、たしかに。


「え、メイクも?

持ってたかな、そんなの……素人が手を出したらおばけになるんじゃ。


あ、そっか、そうだよね。

明日、行ってみる。本屋さんも。


うん、




……うん、やってみる。


私、翔陽を喜ばせる!」



チョコに頼らないで、自分自身で勝負だ。



「えっ、……あっ!


いや、日向くん!日向くんだってば!!

やめて、なっちゃん、はずかしくなってくるから、ねえ!」


二人の時以外は日向くんって呼ぶように気を付けてたのに、その部分だけはすっかり気が緩んでいた。



end.