とあるIFストーリー
バレンタインデー 2
行きたかったお店はバレンタインデー限定のメニューをやっていて、行列が出来ていた。
でも、早めのこの時間とあって、うわさに聞いていたよりはずっと人数が少ない。
私たちの前に5組、お昼より前にはありつけそうだけど、翔陽がおなかがすかないか心配だ。
「は、おれをなんだと思ってるんだ」
「このお店、ごはんもおいしいけど、たぶん翔陽には足らないかなって。あ、そーだ」
翔陽が何故か持ってくれていた私のカバンを受け取って、中から包みを取り出した。
「翔陽、もらってくれる?」
「なに」
「バレンタインの贈り物」
「!いいって言ったのに」
「あげたかったから……、それでもダメ?」
「ダメじゃない!!ありがと!」
翔陽がラッピングを紐解いた。
「これ、クッキーだ!」
「手作りクッキーのこと、すごく言われてたからね……」
去年、後輩たちに作ったものと同じ、にはせず、やっぱりそこは“彼氏”なので、トッピングもなにもかも特別なものに変更していた。
翔陽はさっそくクッキーを頬張った。
「おいしい?」
「ふへえふはいっ」
「ちゃんと食べてからでいいよ」
そんなに一気に口に入れるから。
つい笑って翔陽の口元についているクッキーのかけらを自分の口元に運んだ。
「ん、おいしくできててよかった」
久しぶりに作ったし、慣れない調理器具を使ったから、いつも通りできているかちょっと気になっていた。
急に翔陽が自分の膝を叩いて何か打ち震えていたから何事かと思った。
「し、翔陽?」
「おれが、よろこんでどうする!」
「え?」
理由を聞く前に列が動いたから、一緒に椅子を移動した。
「な、なにが?」
「今のも可愛かったし、朝からずっと可愛くて、おれはすごくしあわせです」
「それは、よかった……」
よくわかんないけど、喜んでくれているらしい。
翔陽がクッキーをまた一つ口にした。
「、してほしいことあったらいつでもどーぞ」
「それ、甘えろってこと?」
こくり、と頷かれる。
そうは言われてもな、といつもの自分が顔を出す。
でも、ここは、あの漫画のヒロインを見習って少しでも甘えてみたい。
えっと、えっと。
考えている間に、一気に列が進んだ。
店員さんもやってくる。
「何名様でしょうか?」
「2人です」
「では、こちらへどうぞー」
明るい店内、雑誌で何度も見た可愛らしい雑貨の数々、それぞれのテーブルではお店自慢のパフェやスイーツが楽しまれていた。
渡されたメニューのあちこちに目移りする。
結局、悩みに悩んで、イチ押しメニューにした。
「どうしよう、すごく楽しみっ」
「、本当にこういうの好きだよな」
「あ、翔陽は苦手じゃない? 大丈夫?」
「おれ好きだよ?」
「ほら、お店の中、女子ばっかりだし居づらいかなって」
「まぁ、おれ一人だったらそうだけどいるし」
翔陽が手慣れた様子でスマートフォンを取り出した。
「笑って」
言われるがままに笑顔でカメラのほうを向いた。
シャッター音がする。すぐ今撮った画像を翔陽は見せてくれた。
「彼女と来た!!って感じがしてうれしい!」
注文したパフェがやってきたのもあって浮かれてしまい、投稿しないでと注意するのも忘れていた(後日、みんなに茶化された)
end.