ハニーチ

11月11日の口実





今日は、某お菓子の日、ということで、波?に乗ってそのお菓子を買ってきた。

ただ、食べるだけじゃおもしろくない。

夕飯前、翔陽はどこだろうと部屋を探してみると、鼻歌がどこかの部屋から漏れ聞こえた。
たぶん、荷物整理をしている。
今週末にまた遠征があったはずだ。

ドアの隙間から様子を伺う。

予想は的中。
でも、邪魔してもよさそうだった。

座り込んでいる背中を軽くつつく。

翔陽がこっちに振り返った。


?」


どうした?って、そんな優しい声色。

なにか自分に用事だろうか。

そんな顔をする翔陽の前に、2本、棒状のお菓子をつまんでみせた。


「ここにお菓子があります」

「おー、ある!!」

「これを、口に入れます」

「うんうんっ」

「食べます」


さく、さく、さく。

さくさく、さく。


規則正しく、時にはやくリズミカルに。
翔陽が見守る前で食していく。

棒の形をしたお菓子2本分は、あっという間に短くなった。
そして、とうとうチョコレートの付いていない持ち手の部分まですべて口の中におさまり、指先から消えた。


「おいしかったです!」

「そっか、よかったなっ」


翔陽がにこやかに微笑み返してくれる。

スタッと立ち上がる。


「じゃっ、お邪魔しました!」

「はっ!?」



部屋を出て行くと、すぐばたばたと足音が追いかけてきて私を後ろからつかまえた。

なんですか。

そんな顔して、今度は振り向く番になる。


は俺にお菓子みせといて、そんで出てくのかよ」

「翔陽、お菓子は控えるって言ってたから。言ったよね?」

「い、言ったけどっ、がそのお菓子持って会いにきてくれたら、その」


期待、する。


翔陽の言葉の半分が消えた。

私がたべてしまったから。

いや、正確には、翔陽のTシャツを引っ張って唇を重ねたからだ。

甘いチョコレートが私たちの間にフッと香って、すぐまた消えた。

2本分、わずかにクッキー部分にかかっていただけの甘さ。


「あのね」


翔陽の分もちゃんとあるよ。

もう一方の手にお菓子の残りがあった。

でも、次また袋を覗いたときにバキバキに折れていたのは、翔陽が私に静止する時間をこれっぽっちもくれなかったからだ。

はじめこそ、お菓子を折らないようにしなきゃって気をつけていた。
でも、翔陽にかかれば、あっという間に夢中だ。
ともにおぼれている。

床にへたり込む私を翔陽は満足げになでて、また近づいた。


end.