とある未来のハロウィン前日、のちょっと先
さあ、これからどうしよう。
そう高ぶった熱が身体の奥底で燃え上がったところで、(まだ始まったばかりだというのに)、近づいてくる足音で状況がすぐわかった。
「にーちゃん、ちゃんきてる!」
かろうじて妹が部屋に入るのは防いだ。
完全に入り口を閉じられなかったのは、何かがはさまっていたから。
なんだこれ、あれか!
「なに?」
「おっ、狼男のマスク!」
「?ふーん」
足で蹴っ飛ばして部屋に押し込んだマスクがどうなったかなんて考える余裕はなかった。
兄を放って部屋に入ろうとする妹の通せんぼをしなくてはならない。
右!
左!!
さすがに兄なので、通せんぼくらい朝飯前だった(部屋の中でごそごそとが着替えているのがわかった)
「なんで入れてくれないの?」
「え、えっと、い、今、、着替え中だからっ」
「着替え?」
「そ、そう」
「なんで!」
「ほ、ほらっ、あれだ! ええーっと」
「は、ハロウィンの仮装を試してたの!」
「そう!それ!!」
部屋の中からが助け船を出してくれて頷く。
今度は夏がじっとこちらを見つめる。
「な、なんだよ、今度は」
「兄ちゃん、Tシャツ裏返ってる」
「え!?」
さっき慌てて着たからだ。洗濯タグが出ていたからすぐにその場で着替え直した。
「ちゃん真っ黒の服だった」
「あれは服じゃなくてマント!」
ってわざわざ教える必要なかったか。もう口から出ちゃったから仕方ないけど。
すぐに戸をしめたのに一瞬で見えていたとは、さすがおれの妹。
……余計な物まで見えてないといいけど。
「マントって昨日兄ちゃんが遊んでたやつ?」
「遊んでたんじゃなくて試着したの!」
急に背後から気配がした。
だ。髪が少しだけ乱れたままだった。
「お、お待たせ。夏ちゃん、お邪魔してます」
楽しそうに妹とが盛り上がる。
の服の襟がまくれていたから、それとなく直した。
「ちゃん、くび」
「え」
「首のところ、虫に刺されてる」
「あ、秋だもんね、気づかなかったな!」
「薬、あっちにあるよー」
夏が走って居間に向かう。
がすぐについていくから、その片手をつかまえた。声をひそめた。
「あのさ」
「ん、わかる」
は即答した。
ほんとに?
わかってる?
聞き返したかったのに、妹の夏がを呼んだ。
一度だけぎゅっと手を握りしめてから、自由にした。
「今日さ、送ってよ」
は振り返らずに付け加えた。
「……部屋まで」
「部屋?」
が早歩きしようとしたから、その肩を掴んだ。
「お、おれ! 旅行用の歯ブラシ、持ってく、けど」
「そうして」
は俯いた。
「うち、まだ予備のやつ、ないから」
最後の方は声が消えかかっていて、顔をのぞき込まなくてもがはずかしがっていることがよくわかったから(それに勇気を出してくれたことも)、そのままぎゅーっと抱きしめた。
もちょうど居間から戻ってきた夏もびっくりしたからすぐ離したけど、熱は冷めない。
夏から受け取った薬を、は手鏡を使いながら首筋の赤い箇所に塗った。
その様子を眺めながら、いまあの場所に触れたら苦いんだろうなと思った。
( 後で、注意しよう )
そんで、悪戯を楽しもう。
ハロウィンはこれからだ。
end! and...Happy Halloween!