ハニーチ

とある未来のハロウィン前日、のもっと先





揺れるバス、見慣れた風景、いつもバス停で見送っていたあの頃。

今日はの隣に座って、手をつないだまま、と一緒にの部屋に行く。

あんまりしゃべらなかったのは、さっき中途半端に止められた興奮がまだ残っているからだ。
おれも、そんでも。


「ここ、やっぱりかっけえなー」

「またこのオートロックの話?」

「そう! 入り口で番号入れてドア開くってかっこいいじゃん!」

「ふつうだってば」


何度かこのやりとりを繰り返していたから、は笑いつつ部屋の鍵を開けてくれた。
どうぞって言うから、お邪魔しますって先に入った。

部屋に入ると、が生活している空気がある。

あんまり広くないけど清潔感のある玄関、その邪魔にならないように靴を脱いで、に促されるまま奥に進んだ。


の部屋っていつ来てもきれいだよなー」

「あ、あんまり見ないでね」

「なんで?」


が片手で視界をさえぎろうとしたから、上手いことよけると、は少し悔し気にこっちを見た。


「今日は急だったから、隅々まで掃除できてないの。女の子の部屋をじろじろ見るのよくないんだよ?」

の部屋じゃん」

「それでも! 昔の翔陽ならすごく緊張してたのにな」


昔の、おれ。

不意に昔ののことも思い出して、熱がくすぶった。



「それ、昔のおれの方がすきってこと?」



飲み物でも用意しようとしていたらしいの手を強引に引いて、同じようにベッドに座らせると、は目を丸くした。

その瞳を覗き込んだ。

は答えないで後ろに身を引いたから、そのままもっと身体を寄せて押し倒した。



「どっち?」

「……翔陽の、いじわる」

「聞いてるだけじゃん」

「どっち言っても機嫌悪くなるんじゃないの?」

「ほんと、って頭いいよな」


だから、こんな風におれの前でだけ、こんな表情を見せるがすきだ。


「でも、不正解っ」

「へっ?」


いっつも花マルで、どこでも優等生で、みんなの前でちゃんとしてるも、こういう時はけっこう抜けてる。

不正解の単語に焦ってるところも可愛い。


「じ、じゃあ、どっちかがよかったって言った方がいいの?」

「そうじゃなくてさ」


わかってないところが、可愛い。

両手を押さえつけて見下ろして、いまこの瞬間ぜんぶを目に焼き付ける。


「どっち言ってもいい」


昔のおれが好きでも、今のおれがすきでも、どっちでも。

ただ、が“おれ”を好きでいてくれてるのはわかってる。


「どっち言っても、どっちもすきって言わせるだけだ」


片膝で相手の太ももに割って入ろうとすると、の眉間にしわが寄ったから、鼻先で髪をよけて耳元でささやいた。

ちから、ぬいて

余計にの肩に力が入ったのが分かったから、つい笑うと、なに笑ってるのってにらまれた。
耳にキスした。


、緊張してるから」

「す、るよ、そりゃ、ぁっ」

「可愛い」

「なんでそんな翔陽は余裕で……」


緊張で早口になる唇を自分ので塞いだ。

さっきと同じように舌でなぞると、が塗り直した口紅を舌先で感じた。

もっと、もっと。

もっと深く繋がりたかった。息がずっと続けばいいのに。

が服を引っ張らなきゃまだいけた。

が涙目だったから、さすがにすぐ言った。


「ごめん」

「ほんとうに悪いって思ってる?」

「……おもっている」

「翔陽」


の目が抗議していた。


「思ってない。なんでわかんの?」

「顔が、ぜんぜん反省してなかった」

「もっとしたいくらいだった」

「息、わたし、翔陽ほどもたないの」

も気持ちさそうだったじゃん」

「そ、いうの言わないの」

「照れてる」

「だからっ」

「もっと見せて」


首筋にキスしようとして、そういえばさっき夏に言われて薬を塗っていたことを思い出した。
もっと頭を下げて鎖骨を舐めると、高い声が漏れたから、それでいい。


「ね、ねえ」

「んー」

「まだ、シャワー」

「あとでいいよ」

「ごはんだってまだだし。おなかすくよ?」


部屋にある時計をチラッと見上げると、確かに夕飯の時間でもある。

それでも、また中断するのも嫌だった。全部同時にできたらいいのに。が甘くおれを呼ぶから仕方なく体を起こした。


「わかったっ」

「ありがと」

「もうちょっとしてから!」

「え!ちょっと!!」

「すぐ、すぐだから」

「んんっ、ん!」


再びベッドに押し戻す。

夢中になったら何時間でも、体感は「すぐ」だ。

それに、確かめてみればだってちゃんと準備はできていた。

濡れた指先を一度だけ舐めて、また元に戻した。



end... and...Happy Halloween!