ハニーチ

とあるポッキーの日





「夜久さーーん!」


聞きなれた後輩の声、3年の教室に来ることはマネージャーであれば珍しいことではない。
慣れた調子では教室の中にやってきた。

自分も今朝の朝練前にもらったお菓子をに渡そうかと思っていたので、部活前に会えるなら好都合。

そう思ったのに。


「……なんだ、その箱」

「ポッキーですが」

「それは見ればわかる」

「え、なんで聞いたんですか!」

「だからっ、なんでそんなの持ってんだよ」

「もらったんです」

「……、……誰に?」

「夜久さんのクラスの人に、いつも可愛いねって」


この新CMだかのキャンペーンは予想以上の速さでなくなったと聞いた。

だとすると、バレー部と同じ早朝練のある部活に入っているやつが自分たちと同じくポッキーをもらった可能性が高い。

にこれをあげたのは、どこのどいつだ。


「あの、夜久さん」

「なんだよ」

「これ欲しいならあげますよ?」

「いらねえよ!」

「だって、すごい顔してにらんでたから」

「……そ、んなんじゃなくてっ!」


「夜久くん、後輩には優しくした方がいいよー」

「な!?」

「あ! さっきこれありがとうございましたっ」

「ううん、もらいすぎて困ってたから」

「……

「はい、夜久さん」

「それ、コイツからもらったのか?」

「はいっ、今聞いた通りもらいすぎたそうで」

「モテる女は大変なんだよ、夜久くん」


したり顔で隣の席の女子が微笑んだ。
机の横にかけられた紙袋には、自分の鞄から覗く同じパッケージが何個も見える。


「好きな子にあげようってキャンペーンらしくてさー」


相手はしれっとの方をわざわざ見てからこっちを向いた。


「でー、夜久くんはそのポッキー誰にあげるのかな?」


こいつ、わかってて言ってやがる。

無性に腹が立ったが反論するのも面倒で、カバンから取り出したそれをに押し付けた。

の方はといえば、まったく状況が分かっていない。

他の誰かに同じ箱を渡されても面倒だ。


「いま、こいつに俺のあげたからな! 、そっち貸せ」

「そっち、とは?」

「先にもらった方」

「あ、はい」


受け取ってそのまま渡してきた女子の机にドン、と置く。

なんでは名残惜しそうにお菓子を目で追っかけてんだと思ったがツッコまずにいた。


「返す」

「私いらないのに」

「返す」

「は~い。ちゃんだっけ、夜久くんのいないときに教室おいでーまたあげるねー」

「いつでも俺はいるから来なくていい」

「あ、予鈴!」


2年の教室までは距離がある。

せめて途中まではと、と一緒に廊下に出た。


「悪いな、用事聞けなくて。なんだったんだ」


はもう階段に向かいつつ腕を振った。


「朝練行けなかった分、夜久さんに会いに来ただけです!!」


また部活で~~!


のんきに間延びした声、こっちは、なんというか、向こうからやってきた教師に顔の赤さを指摘されてしまった。


end.